東京高等裁判所 昭和63年(う)156号 判決 1988年11月28日
主文
本件各控訴を棄却する。
理由
本件各控訴の趣意は、弁護人榊原卓郎、同佐藤義行、同武山信良及び同小松哲連名の控訴趣意書並びに「答弁書に対する反論書」と題する補充書に記載されているとおりであり、これに対する答弁は、検察官久保裕名義の答弁書に記載されているとおりであるから、これらを引用する。
控訴趣意第二点(理由齟齬の主張)について
所論は、要するに、原判決が被告各会社の土地譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に百分の二十の割合を乗じて計算した金額をほ脱税額に加算している以上、(一)法令の適用として、法人税法一六四条一項、一五九条一項のみならず、租税特別措置法六三条をも摘示すべきところ、その摘示がない上、(二)土地譲渡益重課税の対象となる土地は譲渡した土地の総てが対象になるのでなく、短期所有土地等一定の要件を満たした場合に限られるのであるから、罪となるべき事実として、土地譲渡益重課税の対象になる土地であることを明示し、かつ、その旨の土地であることを認めるに足りる証拠を挙示すべきであるのに、そのいずれも欠いた原判決には、理由相互間に理由のくいちがいがあるというのである。
そこで、まず、所論(一)について検討すると、有罪判決を言い渡す際には、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならないことは刑訴法三三五条一項に規定されているところであるが、その適用すべき法令としては、事実に対する刑罰法的評価を示し、かつ、主文の刑が導き出される法令上の根拠を明らかにするものであるから、通常の場合、犯罪構成要件と法定刑を定めた刑罰法令(刑罰各本条のみならず、未遂、教唆、幇助などの規定も含む。)を示せば足りるのであって、非刑罰法規まで摘示する必要はないところ、本件の場合、原判決は刑罰法規として法人税法一六四条一項、一五九条一項のみを適用し、租税特別措置法六三条を適用していないことは判文上明らかである。しかし、後記説示のとおり、同条項は、法人税の税率に関する特別規定であって、非刑罰法規であるから、法令の適用としてこれを示さなければならないものではない。したがって、その旨判示した原判決の判断は正当であって、この点につき原判決には所論のような理由齟齬の違法はない。
次に、所論(二)の主張について検討すると、刑訴法三三五条一項の罪となるべき事実とは、犯罪を構成すべき積極的要件に該当する事実をいい、通常は刑罰各本条に規定されている特別構成要件及び処罰条件に該当する事実、故意及び過失に関する事実、未遂や共犯に当たる事実などをいうものであるところ、法人税法一五九条一項は、法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者が偽りその他不正の行為により、同法七四条一項二号等に規定する法人税の額につき法人税を免れた場合に処罰される規定であるから、その構成要件としては、行為者が法人税を免れようと企て、不正の行為により所得を秘匿した上、税務署長に対し、当該事業年度の実際所得金額よりも所得金額が少なかった旨を記載した内容虚偽の確定申告書を提出して、正規の法人税額と申告税額との差額を免れた旨判示すれば足りるのであって、罪となるべき事実として、必ずしも法人の実際所得金額を算出するに至った経過や土地譲渡益重課税の対象となった土地を具体的に判示する必要はないものというべく、また、その対象となった土地の証拠を一々挙示しなくとも、原判決は、被告各会社につき、原審で共同審理を受けた相被告人Aが原審第一回公判において本件公訴事実を全部認める旨述べたその供述のほか、押収してある被告各会社作成の確定申告書(それらには、申告分に関するものであるが、土地の譲渡益が存在する旨の記載がなされている上、土地の譲渡等に係る譲渡金額に対する税額の計算に関する明細書及び個々の土地の譲渡益が記載されている土地譲渡集計表が添付されている。)、土地譲渡益重課税の対象となる土地の存することを前提にした課税土地譲渡利益金額計算書を挙示しており、そして、これらの各証拠によれば、本件事業年度中に被告各会社がそれぞれ土地譲渡重課税の対象となる譲渡益を得ていたことは十分に認めることができるから、原判決には所論のような理由齟齬の違法はないというべきである。
論旨はいずれも理由がない。
控訴趣意第三点の一、二(訴訟手続の法令違反の主張)について
所論は、要するに、原判決が原判示の各事実につき、土地譲渡益重課税を本件法人税のほ脱額に加算して被告各会社を処断しているのであるから、罪となるべき事実として、当該土地が租税特別措置法六三条所定の土地であることを特定して判示し、かつ、その証拠を掲記しなければならないところ、そのいずれも欠落した原判決には、刑訴法三三五条一項に違反した訴訟手続の法令違反があり、その違反が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである(この点につき、所論は、法令適用に誤りがあるというが、その趣旨は刑罰法規の適用を誤ったことを主張するものではないから、訴訟手続の法令違反を主張しているものと解する。)。
しかしながら、罪となるべき事実として、租税特別措置法六三条所定の土地であることを判示する必要がないこと、原判決の掲げる証拠の標目中には、原審相被告人Aの前記供述のほか、被告各会社作成の前記確定申告書、右土地の存することを前提として土地譲渡益重課税を算出した旨の課税土地譲渡利益金額計算書が挙示されていることは、すでに説示したとおりであって、原判決には所論のような訴訟手続の法令違反がないから、論旨は採用することができない。
控訴趣意第三点の三(事実誤認の主張)について
所論は、要するに、被告人株式会社B(以下「被告会社甲」という。)が架空造成費を計上するに際し、架空の見積書や請求書を作成してもらった手数料として、Bに対し、昭和五八年九月期に二〇〇万円を、同五九年九月期に一七〇〇万円をそれぞれ支払ったのに、これらを損金の額に算入しないで、被告会社甲の二事業年度にわたる所得額を認定した原判決は、法人税法二二条三、四項及び三八条二項の解釈を誤り、ひいては事実を誤認したものであって、その誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである(この点につき、所論は、法令適用の誤りがあるというが、その趣旨は刑罰法規の適用を誤ったことを主張するものではないから、事実誤認を主張しているものと解する。)。
そこで、検討すると、原判決が争点に対する判断の項で詳細に判示しているところは、正当と認めることができるのであって、その判断には所論のような法律解釈の誤りも事実の誤認もないというべきである。所論に鑑み、更に補足して説明することとする。
関係各証拠によると、本件当時、被告会社甲の代表取締役の地位にあったAは、以前経営していた会社が倒産し、約三億円の債務を抱えていたので、その債務やその他の支払いに充てる資金を捻出すべく、架空造成費を計上して被告会社甲における土地の仕入価格を水増ししようと企て、昭和五八年六月以降、知人のBに依頼し、○○興産株式会社または○×興産株式会社名義で、造成工事に関する架空の見積書及び請求書を作成してもらい、これらの書面を使用して、経理部次長Cに指示し、被告会社甲の架空造成費を計上させる一方、その金額に見合う被告会社甲振出にかかる小切手を作成させて、その振出人名下に自ら被告会社甲の代表者印を押捺した上、その小切手を右Bに交付して現金化させた後、同人から手数料(一回につき一〇〇万円)を差し引いた残額を受取って、その現金を自ら保管しておき、そのうちの一部を被告会社甲の費用に充てたものの、大半を恣に自己の株式取引資金等に充てていたこと、以上のような手段を用いて、被告会社甲の架空造成費として、昭和五八年九月期には四一七二万八〇〇〇円を、同五九年九月期には二億四二九一万四二〇〇円を計上したこと、その手数料としてBに対し、同五八年九月期に合計二〇〇万円を、同五九年九月期に合計一七〇〇万円を支払ったことが認められる。
以上の事実に徴すると、AがBに支払った手数料は、いわば脱税協力金ともいうべきものであって、その支払いを被告会社甲がしたものではなく、A個人がしたものと認められなくもない。そうだとすると、右手数料は、そもそも被告会社甲の損金に当たらないものであり、仮に、被告会社甲が支払ったものであるとしても、その手数料は、本件事業年度における被告会社甲の所得計算上、これを損金の額に算入することはできないものと解するのを相当とする。
所論は、別段の定めがないにもかかわらず、本件手数料を被告会社甲の損金の額に算入することを認めなかった原判決は、法人税法二二条、三、四項及び三八条二項の解釈を誤ったものである旨主張する。
確かに、法人税法は、その二二条一項において、「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」と規定し、更に、同条三項において、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額 二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額 三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」と規定するのみであって、右にいう損金の意義について、定義的規定ないし一般的規定を設けることなく、個々の事項につき、同法二九条以下において、ある事項については損金に算入し、ある事項については損金に算入しない旨規定しているに過ぎないので、本件手数料のような違法支出について、法人の所得計算上、これを損金の額に算入することができるか否かは必ずしも明らかではない。したがって、具体的にいかなるものを損金と認めるかは、単に損金の性質論だけでなく、同法二二条四項に規定されている公正妥当な会計処理基準(もっとも、何をもって公正妥当な会計処理基準といい得るかが問題であり、商法、税法、会計学等それぞれの立場があって、一概には決し難いけれども、差し当たり企業会計の実務において慣習として発生したものの中から、一般に公正妥当と認められるところを要約し、証券取引法に基づく財務諸表の監査においても、その公正妥当な基準として実質的に機能している企業会計原則を中心にして、種々の事例ごとに判断すべきであろう。)など、法人税法の各規定に現われた政策的、技術的配慮をも十分検討して、これを決すべきものと考える。
ところで、右にいう損金とは、一般的には、法人の純資産の減少を来すべき損失を指すものと解されており、そして、同法二二条三項各号に規定されている原価、費用及び損失がこれに当たることは明らかであるが、純資産の減少を来す損失の総てが当然に法人の所得金額の計算上、その損金の額に算入されるものと解すべきではない。しかも、一般に、同法二二条三項一号の原価とは、その事業年度の益金の額に算入された収益に対応する原価をいい、同項二号の費用とは、収益と個別的に対応させることの困難ないわば期間費用であって、事業活動と直接関連性を有し、事業遂行上必要な費用をいい、同項三号の損失とは、火炎、風水害、盗難など、企業の通常の活動と無関係に発生する臨時的ないし予測困難な外的要因から生ずる純資産の減少を来す損失をいうものと解されているところ、本件手数料の支払いが被告会社甲の純資産の減少を来すことは明らかである上、その支払いにつき、被告会社甲は、土地の造成費として棚卸資産(販売目的の土地)の仕入原価を構成するかのような会計処理をしているので、一見同項一号所定の原価に含まれるようにも見られないではないが、当該事業年度の益金の額に算入された収益に対応するものではないから、その性質上、同項一号の原価に当たらないことは勿論、同項二、三号の費用や損失にも該当せず、他にこれを損金に算入すべき合理的理由を見出し難いので、結局、本件手数料は、同法二二条一項の損金に当たらないものというべきである。このことは、次のことからもいい得ることである。すなわち、法人税法は、納税義務者が同法の定めに従い、正規に算出された税額を確実に納入することを期待し、これを実現すべく、偽りその他不正な行為により、これを免れようとする者に対し、刑罰をもって臨み、納税者相互間における税の均衡を図っているのであるから、本件手数料のような違法支出を法人の所得計算上、損金の額に算入することを許すと、脱税を助長させるとともに、その納税者に対し、それだけ税の負担を軽減させることになる反面、その軽減させた部分の負担を国に帰せしめることになるのであって、国においてこれを甘受しなければならない合理的な理由は全く認められない上、刑罰を設けて脱税行為を禁遏している法人税法の立法趣旨にも悖るので、実質的には同法違反の共犯者間における利益分配に相当する本件違法支出につき、その損金計上を禁止した明文の規定がないという一事から、その算入を肯認することは法人税法の自己否定であって、同法がこれを容認しているものとは到底解されない。もし、違法支出に係る本件手数料を損金に算入するという会計慣行が存するとすれば、それは公正妥当な会計慣行とはいえないというべきである。
以上のとおり、被告会社甲がBに支払った手数料は、その所得の計算上、これを損金の額に算入することはできないのであって、これと同旨の前提に立ち、被告会社甲における本件事業年度の所得額を認定した原判決には、法人税法二二条三、四項及び三八条二項の解釈の誤りは勿論、所論のような事実の誤認もないから、論旨は採用することができない。
控訴趣意第四点(事実誤認の主張)について
所論は、要するに、被告会社甲が毎年過少申告をしていて、そのことを税務調査の度に指摘されたにもかかわらず、昭和五四年当初から脱税を繰り返していたことや、被告人乙株式会社(以下「被告会社乙」という。)が多額の架空仕入れを計上したことを殊更重大視し、被告各会社に重い罰金刑を科した原判決には、量刑事情の前提事実について重大な事実の誤認があり、その誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。
しかしながら、刑訴法三八二条にいう事実誤認の事実とは、罪となるべき事実など厳格な証明の対象となる事実をいうのであって、量刑事情の前提となる事実は右の事実に含まれないと解されるから、仮に原判決が所論のような量刑事情の前提となる事実を誤認したとしても、その事実が同条の事実に当たらない以上、所論は主張自体失当といわなければならない。のみならず、原審記録を調査して検討してみても、所論のような量刑事情の前提事実に関し、原判決が事実を誤認したものとは到底認められず、仮にこれが量刑不当の主張であるとしても、後記控訴趣意第五点に対する判断の項において示すとおり、原判決の量刑が重過ぎて不当とは認められないので、結局論旨は採用することができない。
控訴趣意第一点(法令適用の誤りの主張)について
所論は、要するに、租税特別措置法六三条に規定する土地譲渡益重課税は法人税ではないのであるから、これを法人税のほ脱額に加算して処罰することは憲法三一条に反し許されないにもかかわらず、被告各会社の土地譲渡益重課税を法人税のほ脱額に加算して、それぞれの法人税額を算出し、これに法人税法一六四条一項、一五九条一項を適用した原判決は、法令の適用を誤ったものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。
そこで、検討すると、被告各会社のような内国法人に対しては、各事業年度の所得について法人税が課せられるものであるところ(法人税法五条)、その所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とし、そして、その所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨定められており(同法二二条一、二項)、その所得の金額に所定の税率を乗じて計算した金額が法人税の額とされている(同法六六条一項)ので、本件各事業年度中に生じた土地の譲渡益が被告各会社の所得に当たることは明らかである。
ところで、租税特別措置法六三条には、「法人が次の行為をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法六六条一項から三項までの規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に百分の二十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。」旨規定されている。その趣旨とするところは、法人の土地に対する投機や投機的需要を抑制するとともに、土地の供給を促進し、最近における地価の高騰を防止するため、法人が租税特別措置法六三条所定の要件を満たす土地を譲渡して利益を得た場合、その利益に対し、通常の法人税のほか、同条に規定する税率を乗じて算出した重課税を課すこととしたものであって、同条の文言自体から明らかなように、法人税の税率を定めた法人税法六六条の特別規定に過ぎないのである。したがって、土地譲渡益重課税は、法人税とは異なる別個の税を定めたものでなく、法人税そのものであるというべきである。してみると、被告各会社の土地譲渡益重課税を加算して本件ほ脱額を算出し、これに法人税法一六四条一項、一五九条一項を適用して被告各会社を処断した原判決には所論のような違法はないというべきである。論旨は理由がない。
控訴趣意第五点(量刑不当の主張)について
所論は、要するに、被告各会社に対し、それぞれ法人に死刑を宣するに等しい多額の罰金を科したばかりでなく、被告各会社間の個別的事情を全く無視して不平等な刑を言い渡した原判決の量刑は重過ぎて不当であるというのである。
そこで、原審記録及び証拠物を調査して検討すると、本件は、当時、被告各会社の代表取締役の地位にあって、その業務全般を統括していたAが、被告各会社の法人税を免れようと企て、(一)売上げを繰り延べ、あるいは架空造成費を計上するなどの方法により所得を秘匿して、被告会社甲の課税土地譲渡利益金額を含めた二事業年度にわたる実際所得金額が七億七二七三万四四八七円もあったのに、三億四一〇一万五三四七円の所得を秘匿して過少申告をし、正規の法人税額とその申告税額との差額である二億六六八万七九〇〇円の法人税を免れ、(二)仕入れの水増し、あるいは架空支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿して、被告会社乙の課税土地譲渡利益金額を含めた二事業年度にわたる実際所得金額が五億九二三〇万七九八七円もあったのに、四億六一二三万五四四一円の所得を秘匿して過少申告をし、正規の法人税額とその申告税額との差額である二億七七〇六万八八〇〇円の法人税を免れ、(三)架空の販売促進費、あるいは支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿して、被告人株式会社丙(以下「被告会社丙」という。)の課税土地譲渡利益金額を含めた一事業年度の実際所得金額が一億一四八七万九七六円もあったのに、五八二七万二六九九円の所得を秘匿して過少申告をし、正規の法人税額とその申告額との差額である三四一四万七〇〇〇円の法人税を免れたという事案であって、被告各会社のほ脱額が巨額である上、被告会社甲のほ脱率は二事業年度を通じて五三パーセントに、被告会社乙のそれは七八パーセントに、被告会社丙の一事業年度におけるほ税率は四九パーセントにも達していること、Aは、以前経営していた会社(宅地の分譲販売業)の倒産により約三億円の債務を抱えていたので、その返済資金を得ようと考え、更に株式の取引資金を捻出したり、会社の業績が悪化した場合に備えて余裕資金を確保して置くべく、経理担当従業員らに命じて、被告会社甲の昭和五四年九月期ころから、売上げを除外し、あるいは仕入れの過大計上をするなどして脱税を行ない、税務調査の結果、約二一〇〇万円の増額修正申告をしたほか、その後も本件に至るまで毎年過少申告をしては修正申告をし、更に仕入れの水増しや架空手数料の計上などの方法により、被告会社甲については設立当初の昭和五八年一一月期から二期にわたり、被告会社丙についても昭和五七年三月期から三期にわたって、いずれも過少申告をした後修正申告をしているにもかかわらず、なおも多額の脱税をすべく、被告各会社の事業年度進行中から架空の造成費や人件費を計上する一方、期末に至って架空の販売促進費や支払手数料等を計上して仮決算した後、各期の利益を削減して確定決算を組み、それをもとに税務申告をするなど、大胆にも本件各犯行を常習的、計画的に敢行していたものであること、しかも本件ほ脱による金員の大半がA個人の株式取引に使用されていること、四ッ谷税務署から税務調査の予告を受けるや、従業員に命じて証拠隠滅工作をするなど、犯情も悪質であること、被告会社甲は本件と同時に法人税法違反の罪で起訴された株式会社丁を吸収合併して、同会社の法人格を失わせたため、その刑事責任を問い得なくなったこと、以上の諸点に徴すると、被告各会社の刑事責任を軽視することはできないというべきである。してみると、Aは、被告各会社に対する本件査察が開始されるや、直ちにその非を認めて自供するとともに、責任を痛感して代表取締役を総て辞任し、懲役一年八月の実刑に服していること、被告各会社においても、本件ほ脱の結果につき修正申告の上、その本税及び付帯税の全額を納付したことはもとより、経理体制を改善したことなど、被告各会社に有利な諸般の情状を十分斟酌しても、被告会社甲を罰金六五〇〇万円に、同乙を罰金七八〇〇万円に、同丙を罰金九〇〇万円に処した原判決の量刑はやむを得ないものであって、これが重過ぎて不当であるとは考えられない。論旨はいずれも理由がない。
よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官簑原茂廣 裁判官朝岡智幸 裁判官新田誠志)